PROJECT STORY
日本武道館増改修工事の設備設計
ー2020年オリパラ開催に向けてー
第32回BELCA賞ベストリフォーム部門受賞
PROJECT STORY No.02
運動施設
- 環境シミュレーション
- 光環境
- リノベーション/コンバージョン
Data物件データ
建物名称日本武道館
所在地東京都千代田区
主要用途観覧場(事務室・飲食店)複合用途
延床面積21,458.20㎡(全体・中道場含む)
規模地下2階、地上3階
構造鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造(大屋根)
工期2020年9月27日
建築主公益財団法人 日本武道館
建築設計(株)山田守建築事務所
設備設計(株)総合設備コンサルタント
建築施工(株)竹中工務店
衛生設備施工須賀工業(株)
空調設備施工高砂熱学工業(株)
電気設備施工日本電設工業(株)
本施設は、千代田区の武道場として1964年10月の東京オリンピック開催時から運営が行われてきたが、施設の老朽化と併せて、また2020東京オリンピックパラリンピック(以降2020オリパラ)柔道・空手、パラ柔道競技において正式会場に選ばれたことにより大規模な模様替えを行った。
省エネ性の高い機器を積極的に採用するとともに、施主からの要望に対応し2020オリパラ開催に向けての運営がスムーズに行えるよう「中道場棟の増築」や「本館の全面改修」を行った。
アリーナ競技用照明のLED化
既設アリーナ照明は1,600台以上ありその重量は1台あたり1kgと非常に軽いものであったが、全面LED化に伴い設計段階で選定した同等のLED器具は1台あたり3kgあり、1台あたりでは2kgの増、全体で約3.2tの荷重が新たに天井にかかる計算となった。日本武道館では様々なイベントが行われ、その際に天井から吊り下げる機器には構造上の荷重制限(30tまで)が設けられており、それらのイベント運営に影響が出ないよう、荷重の増加はどうしても回避する必要があった。そこで設計段階よりメーカー協力の元、試作品(サンプル)を製作し、施工段階では施工者も交え、軽量化に向けて検討を行った。最終的に既製品(別商品)の最軽量のフィンと今回の機器本体を組み合わせた照明器具を特注製作し、1台あたり2kgまでの軽量化に成功した。既設との残りの差分約1kgの増量については、建築工事の大屋根改修の屋根材を軽量化することで従来同様の荷重制限まで吊れる仕様を実現した。
特別室照明
様々なイベントを行う上で、要人(VIPの方々)が利用することを想定した特別室が7室あり、天井や壁は一般的な仕様より高品位なものを採用している。その中でも特徴的なのは光幕天井であるが、電気設備としては、現場で作成した光幕のモックアップに、数種類の照明器具を設置してそのイメージを目視確認し、最終的に建築主、建築意匠の承諾を得て器具を決定した。また、コンセントやスイッチは黒色の器具とし、プレートは特別室にふさわしいゴールドプレートを採用した。
電光掲示板フルカラーモニタへ更新
既存設備はアリーナ東西2階客席最前列に設置された「電光掲示板」と呼ばれる3色LEDモジュール+フルカラー LEDモジュールであり、4/5が3色の文字情報、1/5が動画やフルカラー表示が出来る仕様であった。今回の増改修にて全面フルカラー表示(LEDモジュール6mmピッチ)や動画配信が出来るよう機器本体の仕様を見直した。
本設備は武道大会やイベント開催における競技情報や映像情報等を送出・表示できる設備であり、競技大会や多様なイベントを行う施設として必要な映像情報や静止画映像を全面フルカラーLED表示装置へ表示し、入場者や競技者へメッセージや競技進行サービスを提供するものである。また利用者の多様な運用シーンに合わせ、映像操作は複数室から可能とし、「電光板操作室」、「電気準備室」、「施設課」、「場内アリーナ」のいずれかで行うことが出来る。
また一般利用や簡易運用にも対応するため、アリーナ内のコネクター盤にユーザー持込PCの入力やあらかじめ設定された表示パターンの送出、映像表示を可能としている。
高性能監視カメラの配置
2020オリパラの正式会場に選ばれたことや今後の様々なイベントにおいても、防犯性や安全性を高めるべくカメラの台数や配置を大幅に見直した。
カメラは1台で4方向が撮影可能な固定式4方向カメラとPTZ(パンチルトズーム)式カメラの2種類を採用した。場所に応じて2種類のカメラを使い分け、設置台数の削減を行うことにより効率的なシステムを構築した。
中央監視室では55インチモニタ3台により3画面で一度に全カメラを監視したり、見たいカメラを1画面表示に切り替えたりと様々な表示が可能となっている。
すべてのお客様が快適に使えるトイレ
本改修ではトイレの拡張(器具増設)、既設器具の更新を行い、使いやすく、メンテナンス性に優れ、安全性にも配慮した器具を採用した。
洗面器の水栓類は、省エネルギー性・非接触による衛生面も考慮して自動水栓を採用した。大便器についてはフラッシュタンク式の器具を採用し、給水ポンプの能力を抑え、給水管口径を小さくすることに留意した。観覧場という用途の特性としてイベントにより利用者の形態が変化するが、男女比率に応じて男女トイレの割合を変えて使用できる切替トイレの構築を行った。また、大小さまざまな多目的トイレを隣接させLGBTの方の利用に配慮した。多目的トイレには、汚物流し・電気温水器等がユニット化された、多機能トイレパックを採用した。
様々な消火設備
消防法上の用途は、防火対象物16項イ(複合用途防火対象物)で、消防協議により本館・事務棟・新館を1棟扱いとした。全館スプリンクラー消火設備と屋内消火栓で警戒を行い、2階喫茶厨房には簡易自動消火装置を自主設置した。大道場内の地下2階アリーナ部分においては、スプリンクラー消火設備の小型放水銃を東西2か所に新設し警戒を行っている。
また、2020オリパラ会場となることから、東京消防庁とより安全に配慮した火災予防対策について協議し、地下階に連結送水管の追加設置を行っている。
ガス吸収式冷温水発生機の採用
本改修では既設中央熱源方式をそのまま採用したが、近年温暖化による冷房負荷の増加やイベント時の電気使用量増加を考慮して、ガス吸収式冷温水発生機の増設を行った。
これに伴い温熱源の蒸気ボイラーを撤去し、煩雑なメンテナンスを無くしランニングコスト低減を図った。また、1、2階ロビーの4方位にファンコイルユニットを設置し、入館した人が一息つける空間を構築した。
控室などの小部屋については、使い勝手のよい空冷ヒートポンプ式空調機による個別空調方式とし、劣化機器の更新や新設を行った。場内客席の空調は、2~3階客席部分を地下2階8方位に各1台設置したエアハンドリングユニット、アリーナ部分を1階客席天井内8方位に各2台設置したファンコイルユニット、1階客席部分を同天井内設置のファンコイルユニットで行っている。本改修では、ファンコイルユニットの更新と1階客席部分のダクト更新による気流バランスの改善を行った。
気流シミュレーションによる快適な空間の構築
本改修では、既存換気システムをそのまま使用することを基本とし、エアバランスの調整や劣化機器の更新を行った。アリーナおよび固定客席の場内においては、簡易温熱環境シミュレーションの結果から、熱溜まりとなる3階客席上段部分に排気口を設置するとともに空間全体の換気バランスを再検討し、換気機器の風量や運転制御方法の変更を行った。気流シミュレーションにより空調気流の最適化を図るため、3階客席上部16カ所(1方位あたり2台)に「排気ファン」を設置して上部客席の快適性を向上させた。
Designer設計者
機械設備設計
設計・監理本部 NTT設計・監理グループ
坂口 圭志Keiji Sakaguchi
既存建物の意匠性を損なうことなく、新たな設備を建物にどう違和感無く溶け込ませるか、意匠と設備の間で最大の課題でした。当初の意匠性をそのままに最新設備への更新により快適な空間を作りあげられたと思います。現場では多種多様な関係者が協働し、学びの多い経験になりました。
電気設備設計
設計・監理本部 NTT設計・監理グループ
石田 潤Jun Ishida
本プロジェクトには基本設計から竣工に至るまで約6年間に渡り携わりました。本プロジェクトを通して顧客要望を重視し、課題を一つ一つ解決しながらプロジェクトを進行させる経験が出来た事は私自身、設計者として成長でき貴重な財産となり、自身の代表作とも呼べる設備設計となりました。関係者の方々には心より感謝しています。