PROJECT STORY
温泉集中配湯システムの高効率化改修工事について
ー穂高温泉郷西穂高地区ー
第38回空気調和・衛生工学会振興賞技術振興賞
PROJECT STORY No.06
その他施設
- コミッショニング
- リノベーション/コンバージョン
Data物件データ
建物名称穂高温泉郷西穂高地区配湯エリア 長野県
所在地長野県安曇野市西穂高地区
主要用途温泉の集中配湯システム
工期2019年8月~2020年1月:計画策定
2020年3月~2020年9月:実施設計
2020年9月~2022年1月:施工
建築主穂高温泉供給株式会社
送湯長総延長85kmのうち約850m(西穂高地区)
設備設計(株)総合設備コンサルタント
施工者ヤマト・フジヒタチ特定建設工事共同企業体
本プロジェクトは、穂高温泉供給株式会社が供給している温泉配湯エリアのうち、西穂高地区の配湯システムを対象に改修を行ったものである。対象エリアは、竣工から30年以上経過し、設備機器の経年劣化や配管、貯湯槽の保温性能の低下など、配湯を効率的に行う上で設備機器、配管、タンク類の更新時期となっていたことから、環境省の補助金を利用しCO2排出量の削減を考慮した温泉配湯システムの更新を行った。改修のポイントを表に示す。
西穂高地区配湯システムの概要
対象地区は、発注者が温泉を供給している長野県穂高温泉郷のうち西側の西穂高地区である。西穂高地区の配湯システムは、P1ポンプ所、P2ポンプ所、P3ポンプ所、中継槽、一の沢中継所、第1配湯所、第2配湯所、第3配湯所により構成されている。
P1ポンプ所から中継槽までポンプにより揚湯し、中継槽から一の沢中継所まで高低差を利用して配湯後、第1配湯所~第3配湯所までポンプにより配湯しており、主にポンプ動力により配湯を行っているシステムである。このうち当該事業では、配湯管長約9kmのうち各配湯所間を送湯するメイン送湯管約850m、貯湯槽は8~220㎥の計8基、ポンプは120~551L/minの計25台が改修対象であった。
適正な温泉配湯システムの容量計画
配湯システムが運用開始をした当時と現状では配湯先のユーザーの状況も大きく変わっている。そのため、実態に合わせた適正なシステムを計画することが重要であり、配湯量の時間変動や配湯温度を把握する必要があった。当該施設においても、検討に必要となる箇所全てのデータはなかったため、基本計画策定において、既存データの分析と不足箇所のデータを実測し、温泉需要量の算定を行った。なお、各ポンプ所から配湯所までの送湯ポンプについては既存の流量と同等とし、各配湯所までの送湯量は維持することとした。
BIMモデルの活用
当該改修においては、イニシャルコスト低減のために補助金の活用を念頭に事業を進めた。補助金活用のためには、執行制限に合わせた施工計画が重要であり、さらに、施工業者との工事費算出のための数量調書や、図面の共有も効率化する必要があった。加えて配管ルートやメンテナンスを考慮した機器類の設置位置など発注者との合意形成を容易にすることも必要であったため、実施設計においてBIMモデルを活用した。
ポンプ所の廃止によるメンテナンス性向上
P3ポンプ所は山中にあり車両でのアクセスが出来ないため、メンテナンスや機器の故障対応時に大きな負担となっていた。特に、冬季は降雪の影響を受け、山中に入ることが出来ない場所にあった。そこで、今回の改修では、メンテナンス性も考慮し、P2ポンプ所から中継槽まで約260mを揚湯することにし、P3ポンプ所を廃止した。ポンプ廻りの弁類耐圧は、静水圧で200m(2.0MPa)を超えるが、温泉温度は70℃以下となることから、バルブごとに圧力-温度許容範囲を確認し20K耐圧のバルブを採用した。また、ウォーターハンマー対策としては、流体が温泉となることから精密な構造をもったものは避け、アキュムレーターを設置している。改修後のP2ポンプ所の状況を写真1に示す。
高効率ポンプの採用とインバータ制御
改修するシステムでは、全てのポンプに高効率ポンプを採用し省エネ化を図った。また、当該地区は温泉の湯の花スケールが少ないこともあり、汎用ポンプを採用することでイニシャルコストの低減を図った。配湯方式については、既存システムは、定流量循環方式を採用し、手動により、戻り量と排水量を調整することで配湯温度の調整を行っていた。今回の改修では省エネ化と効率化を目的に、戻り圧力及び流量に基づく、インバータによる変流量制御システムを導入した。
クラウド型監視システムの導入
西穂高地区の配湯システムは、点在するポンプ所、中継槽、配湯所から構成されそれぞれの運用状況が連動したシステムとなっている。既存の監視システムでは、管理事務所及び各機械室でのみ監視が可能であった。改修後は、流量、温度、圧力、水位などの計測情報や警報情報を、インターネット環境に接続できるスマートフォンやパソコンによるリアルタイム監視が出来るクラウド型監視システムを導入し、日常の管理を容易にした。
省エネ効果とCO2削減効果
改修前後の省エネ性と環境性比較を行った。比較は改修前の2020年4~6月と改修後の2022年4~6月で行った。ここでは4月の各ポンプ所、配湯所の電力消費量の比較結果を示す。CO2削減効果は、4~6月の月平均で8.9tCO2削減されており、年間では約107tCO2/年の削減が見込まれた。計画策定時に試算した119tCO2/年にほぼ近い値となった。
Designer設計者
機械設備設計
設計・監理本部 第1設計・監理グループ
道川 新Arata Michikawa
温泉施設は配給湯システムの老朽化が進んでいることが多く、また運転時間が長いことからも高効率化を図ることで、運用コストとCO2削減の可能性が高い施設となります。全国的に老朽化している同様の温泉地は多いため、引き続き持続可能な温泉地の活性化に尽力していきたいと思います。
電気設備設計
設計・監理本部 第1設計・監理グループ
瀧ヶ崎 達也Tatsuya Takigasaki
温泉施設の設計においては、温泉水に対する配管配線の耐久性を重視するとともに、メンテナンス性・将来の更新性に配慮し設計を行いました。今後も施設の長期的な運用を支え、安心して運用が出来る設計に務めていきたいと思います。